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「提供者について『ほとんど知らない』」卵子提供で親になるあなたへ:知っておきたい心の準備と家族の絆


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はじめに

卵子提供という選択肢を検討し、ドナーの方に関する情報が限られている(例えば血液型程度しか分からない)という状況の中で、新しい家族を迎えようとされているご夫婦の皆様へ。

この記事は、皆様の選択を問い直すものではありません。むしろ、この特別な道を歩む上で自然に生じうる心の動きや課題を事前に理解し、ご夫婦で「心の準備」をしておくことで、より豊かで誠実な親子関係を築くための一助となることを願っています。NOVASEEDでは今後、このテーマについてさらに深く掘り下げた情報提供に努めてまいります。

 

1. 子どもからの問い「自分は何者?」に、どう向き合うか

子どもが成長するにつれて、「私は誰に似ているの?」「どうして絵を描くのが好きなんだろう?」といった、自身のルーツやアイデンティティに関する問いを持つのは、ごく自然で大切な発達の一部です。それは、「自分が何者なのか」を確かめたいという深い願いの表れです。

しかし、提供者の方の具体的な情報がほとんどない場合、親はこれらの問いに対して、想像や一般的な話以上の答えを与えることができません。子どもが自身の「遺伝的な半分」について具体的なイメージを持てない状況」は、研究で「遺伝的なゴースト(genetic ghosting)」とも呼ばれ、時に自己肯定感やアイデンティティの確立に複雑さをもたらすことがあります。

親としては、子どもの切実な問いに深く寄り添いたいのに、情報がないために十分に応えられない無力感や申し訳なさを感じるかもしれません。大切なのは、答えられないという事実も含めて、「あなたのルーツについて、私たちももっと知りたいと思っているよ」と、正直に、そして愛情をもって対話する姿勢です。

 

2. 見えない遺伝的背景への、親としての現実的な不安

子どもの健やかな成長は何よりも大切な願いですが、提供者の方の病歴や家族歴(遺伝的な背景)が不明であることは、親にとって具体的な不安の原因となり得ます。


•将来の健康リスクへの備え: もし子どもに何らかの健康問題が生じた際、遺伝的な要因が関係しているのかどうか、その情報を得ることが困難になります。これは、適切な予防策や治療法の選択において、一つの制約となる可能性があります。遺伝学やバイオ医学の発展により、この問題は今後さらに重要性を増すかもしれません。


•子どもの「個性」の理解: 子どもの性格、才能、体質などが、ご夫婦とは大きく異なると感じたとき、「これは提供者の方から受け継いだ資質なのかもしれない」と考え、その背景を知ることで子どもへの理解を深めたいと感じる親御さんは少なくありません。情報がないことは、子どもの多面的な個性を理解する上での「ミッシング・リンク(失われた環)」となる可能性があります。

研究によれば、当初は情報の少なさを気にしていなかった親御さんでも、子育てを進める中で「やはり、もう少し提供者の方の情報を知っておきたかった」と感じるようになるケースは珍しくありません。

 

3. 「知らない」ことが、家族のコミュニケーションにもたらすもの

提供者の方について「ほとんど何も知らない」という事実自体が、家族間のコミュニケーションに、目には見えない影響を与えることがあります。(子どもに真実を告知するかどうかという問題とは別に)


•親自身の心の負担: 提供者の情報がないことで、親自身が子どものルーツについて漠然とした疑問や不安を抱え続けたり、子どもから質問された時にどう答えればよいか悩んだりすることがあります。


•夫婦間の認識のずれ: 情報がないことへの向き合い方について、ご夫婦間で考え方や感情に温度差が生じ、それがコミュニケーションの壁となる可能性も指摘されています。


•子どもの感じる「空白」: (もし子どもが事実を知った場合)自分だけが家族の中で、自身の遺伝的なルーツについて「何も教えてもらえない」という状況は、子どもに説明不足による疎外感や、「なぜ隠すのだろう?」という不信感を与えかねません。

 

おわりに

限られた情報の中で卵子提供を受けることは、多くのご夫婦にとって希望の光となる選択肢です。しかし同時に、「知らない」ということが、長い子育ての過程で親自身の心や家族の関係性に、ユニークな課題をもたらす可能性があることも事実です。

最も大切なのは、これらの可能性を事前に理解し、ご夫婦で十分に話し合い、将来子どもがルーツについて疑問を持った時に、情報がないという現実も含めて、誠実に向き合えるか、その覚悟をご夫婦で共有しておくことです。


どのような選択をするにせよ、その選択が持つ長期的な意味合いを深く理解し、準備しておくことが、後悔のない、そして愛情に満ちた家族形成への第一歩となるでしょう。

 
 
 

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